I. 基本的な考え方
「改革なくして成長なし」と繰り返すばかりで就任以来、弱者にしわ寄せばかりを貫き、実態は官僚や銀行、そして抵抗勢力との妥協を繰り返し、真の構造改革を為し得ない小泉総理と、既得権益に縛られ効果の乏しい従来型の景気対策ばかり声高に主張する自民党・連立与党によって、国民生活は奈落の底へ落ちようとしている。10年以上に渡る自民党の無節操な経済運営によって財政政策・金融政策が全く機能しない歴史的にも異常な経済状態に陥った上での経済失政と、世界経済の構造変化を受けたデフレの深化で、このままでは我が国経済は収拾のつかない大混乱状態に陥る。
危機を招いた直接の原因は、小泉政権の経済無策にある。小泉総理就任以来、株価は約4割下落し、これに伴い100兆円超の資産が失われた。失業者は50万人以上増え、失業率は0.9ポイント悪化している。各種指標がスパイラル的に悪化する中でも、小泉総理は「改革、改革」と叫ぶばかりで景気に対して何ら有効な手を打たず、「改革」はセミの抜け殻となり、国民経済が転落の一途をたどっている。小泉内閣が行き着いた先は「1内閣1閣僚」、ペイオフ実施、国債30兆円枠、朝令暮改の不良債権加速化など、自らの公約を次々と破棄し、いたずらに現在と将来の不安を高めているに過ぎない。現実に目をそむけ「改革は進んでいる」と強弁する小泉総理、展望なきまま従来手法に固執する自民党にわが国の経済運営は任せられない。
民主党はこれまで、1.不良債権処理を速やかに進め経済のボトルネックを解消する、2.あるべき経済社会のビジョンを明確にして、これに応じた産業分野の育成と雇用の創出を図り、デフレ対策を強力にすすめ、不況を克服する・転換期の痛みに対してはセーフティネットの拡充で対応する、という基本的な経済政策の在り方を強く訴えてきた。しかし、小泉政権の「経済無策」によって我が国はすでに「経済有事」に陥っている。この危機を回避するためには財政政策の根幹を堅持しつつ歳出構造の改革を推進し、当面緊急の施策を強力にすすめるとともに、産業再生と国民生活の質の向上をめざした新しい需要の創出策を積極的に展開することが必要である。
民主党は、今後のあるべき経済政策を、1.危機を回避するための緊急対策、2.我が国経済・社会のあるべき方向性を踏まえた新産業・雇用の創出に整理し、1については今国会中の迅速な対応を進める。
II. 危機回避のための緊急対策〜今国会での対応
(1)雇用政策
1. 雇用の維持、創出等
o 「緊急地域雇用対策特別交付金」の抜本改革(雇用期間の延長と更新制度の創設、事業委託に際するNPOの積極活用および起業の奨励・助成、採用時のハローワークの活用および地方自治体による職業紹介事業の解禁、以上とは別途に雇用交付金とセットで運用される起業資金無利子・無保証貸付制度の創設)による自治体と住民主導による中期的展望をもった雇用創出事業の強力な展開を図る。
o 派遣労働、有期雇用契約、裁量労働制等の規制改革と労働者保護制度の拡充、募集・採用における年齢差別禁止を同時に推進する。
母子家庭の母、障害者等の雇用を大幅に拡大・安定を図るため間接雇用を推進する。
2. 雇用保険制度の強化・人材の育成等
o一般会計から二兆円規模を繰り入れる(もしくは労災保険勘定からの借り入れ)「失業等給付資金」の創設により、雇用保険の財政基盤の抜本的拡充を図る。
o 雇用保険給付期限切れ後を含め、最長2年の職業訓練と能力開発手当の支給を内容とする「求職者能力開発支援制度」を創設する。
o 非自発的失業者に対する健康保険料の軽減および住宅・教育ローン及び家賃負担の軽減制度の創設を図る。
(2)中小企業対策
3. 起業に対する支援、競争力ある企業の育成
o 創業5年以内の中小ベンチャー企業の法人課税免除を実施する。
o よりベンチャー企業の実情に即した社債発行制度の改善、ベンチャー企業と投資家の結びつき支援、大企業技術者のスピンアウト促進等総合的な起業支援策を講じ、「100万社起業」「特別融資枠」を実現する。
o 高度な技術を持つ中小企業に対して政府が補助金を交付するSBIR制度の改善をすすめる。
o 中小企業(同族会社)の留保金課税を撤廃する。
4. 資金調達環境の改善等
o 地域金融円滑化(金融アセスメント)法の制定等による貸し渋り、貸しはがしの解消を強力に行う。
o 貸し渋り・貸し剥がしへの緊急避難策としての「特別信用保証」の復活、政府系金融機関(民主党の「金融再生ファイナルプラン」によって創設される中小企業専門銀行を含む)の中小零細企業への資金貸付拡大を行う。
o 政府広報によるイメージ改善、信用保証協会に対する積極的保証承諾の指導等売掛金債権担保融資制度の運用改善を図る。
o 中小企業向けに個人保証の不要な事業者ローンを実現する第一歩として、信用保証協会の保証融資、政府系金融機関から個人保証を廃止する。
5. いざという時のセーフティネット拡充等
o 連鎖倒産回避のための「セーフティネット保証制度」を拡充する。
o 個人破産時における差し押さえ禁止財産の範囲の拡大、個人保証を行う企業経営者へのセーフティネットの導入等をすすめる。
o 下請代金支払遅延等防止法を改正し、サービス産業への適用拡大、罰則の強化などを行う。
(3)税制
6. 国民生活を支え、あるべき社会を目指した税制
o 住宅、自動車、教育費等のローンに係る利子を所得控除する「ローン利子控除制度」を創設する。
o 住宅譲渡損失の繰越控除制度の拡充(賃貸住宅住み替え時への適用)、譲渡損失を前年度所得から控除できる繰戻還付制度を創設する。
o 認定NPO法人の要件緩和、「みなし寄付金制度」導入、地方税における支援措置の導入などNPO支援税制の抜本拡充を行う。
o 不動産取引等に係る登録免許税の定額手数料化、印紙税の廃止も含めた見直しを行う。
7. 企業の競争力強化に向けた税制
o 全産業を対象とした研究開発及び環境対策に対する政策減税の拡充及び恒久化。企業の設備更新の促進に資する減価償却制度の抜本的見直しを行う。
o 連結付加税を廃止する。
8. 「貯蓄から投資へ」〜1400兆円の個人金融資産の活用に向けた税制
o 日銀による株式購入は市場を歪めるものであり、容認できない。民主党は証券市場の活性化、直接金融の拡大を図るため、株式譲渡益課税の時限的なゼロ税率適用、損益通算範囲の拡大、繰越控除期間の延長を行う。あわせて公正・透明な市場を確立するために、「日本版SEC」を設置する。
o 売却損の損益通算範囲の拡大等エンジェル税制の大幅拡充を推進する。
(4)財政政策
旧来型公共事業などの単なる需要追加を目的とする「財政出動」(補正予算を含む)は、効果がないばかりか、さらに財政を悪化させ、国民の不安をあおり、産業再生にも国民生活の再建にも結びつかないものと考える。
民主党は、財政規律を維持し中期的プライマリーバランスの確保を追求しつつ、国と地方の財政関係見直し(分権の推進)と歳出構造の抜本的洗い直しなど自民党政権の無駄と非効率、不公正の徹底的な解消を図り、今日の危機に対応できるよう一刻も早く補正予算を編成するとともに、「平成15年度予算」も必要な施策の推進と無駄・不要不急経費・事業の削減を一体のものとして実施し、国民経済に効果的かつ現下の厳しい国民生活の状況下においては国民に新たな負担増をもたらさないものとすることを主張する。
本年通常国会において野党4党共同で予算組替動議を提出し、本来あるべき予算の姿を示したが、これを政府が受け入れていれば景気状況は現在と異なったものになったと考えられる。
補正予算の編成は、われわれが主張してきたあるべき今年度予算への組替を基本とし、無駄な公共事業の見直し、官僚の天下り機関と化している特殊法人への歳出の見直し、特別会計の洗い直しなどによって財源を発掘することを原則として緊急対策に充てる。