東京の活性化のために、民主党では新しい特区構想などを確立した。従来は、一定の地域における都市開発に対し、その不動産取得税について、減免をするなどに限られていたが、新しい特区構想では、そこに誘導された企業については、その法人税等の軽減ができるということを含め、韓国における特区と同じような可能性を持たせている。更には、特別の都市計画により容積率や建蔽率などについても一定の特別の措置を講じるものとなっている。そして、こうした東京の都市の活性化のためには、通過交通などを都市内部に入れないことなどの配慮が必要な条件の一つとなる。
松原仁は国土交通省の副大臣の時に、凍結されていた外郭環状自動車道路の、本格再着工を決断した。勿論このことについては、党内にもさまざまな意見があった。しかし、私は東京を活性化したいという商工会議所からの要望や様々な首都圏の首長の方々、議員の方々からの強い要請、住みやすいきれいな東京を求める多くの都民の方々の要望を受けて実現するべきと判断した。
そして、この決断によって、具体的には、大泉ジャンクションから東名ジャンクションまでの工事を始めたのである。この外郭環状自動車道路が完成すれば、約60分かかっていた当該区間の所要時間は、約12分間に短縮される。
勿論、都市の景観の問題や、排気ガスを都内にまき散らさない配慮とともに、東日本大震災の教訓から、震災に強い街づくりということもその命題の中にあった。とりわけそうした中で注目したのは、外環自動車道の完成によって通過交通を都心に入れることなく周辺を通過させることができるようになると言う、首都高速自動車道の地下化についての杉並ロータリークラブなどから提言であった。こうした提言を受け、松原仁は私的勉強会を始めた。何故ならば、首都高の地下化によって、都心の交通や様々なインフラについての大きな、震災対策が行われることが自明であり、また大都市の地下という新しい都市資源の開拓は意義深いと考えられるからである。
その後、松原仁は大臣に就任し、国土交通行政を所管とする立場ではなくなったが、この私的研究会は拡大をし、評論家の三宅久之氏に座長就任を強くお願いして、「首都高速の再生に関する有識者懇談会」が発足することとなった。三宅先生は何回か固辞をされたけれども、私がご自宅にお伺いをし、ひざ詰めでその思いを語ると、「今の日本にはこうした大風呂敷のような、夢のある構想が必要だ」と言って、最終的には座長をお引き受け頂いた。そしてその場から電話で、東京都の猪瀬副知事にメンバー就任をお願いしてくださった。先日三宅先生がご逝去される報に接し、先生の最後の情熱を傾けて頂いたのが、この首都高速道路の地下化となったことに感慨を覚え、三宅先生の御意志を継いで今後その実現に全力で取り組んでいきたいと誓った。
この首都高の地下化は、災害対策としてとりわけ重要な意義を有するのみならず、都市の美観の構築、更には都市の本来持つダイナミズムを高揚する効果も併せ持つものとして各方面から注目されている。
更に、松原仁はこうした東京都の都市の力をハード面から高めるだけではなく、多くのソフト面からの取り組みも必要であると考えている。
例えば、シンガポールなどが国際的ハブ都市を目指すために打ち出している様々なソフト戦略がある。下記にあるように、こうしたことについて、わが国家が十分に対応することが肝心である。
諸外国は法人税率の低さに加え、税・補助金・入国手続に各種のインセンティブを設け、熾烈な企業・人材獲得競争を展開。 特に、韓国やシンガポールはターゲットを絞り、大胆なインセンティブを付与。企業誘致機関が強力に誘致活動を展開。
韓国 | シンガポール | 日本 | |
---|---|---|---|
助成金 | 〇誘致補助金(現金支援制度):一定の条件を滴たす外国企業。又は、経済的な効果が大きい投資に対しては、誘致機関が企業と交渉。 | 〇対象企業の人材育成等への補助金:研究開発を行う会社、シンガポールに本社を置く企業等に対し、エンジニアの雇用が増加することなどを条件に補助金を支給。 | 〇呼び込み目的の助成金インセンティブなし |
法人税 | 24.2%(2012年度~ 22%) | 17% | 40.69% |
税の優遇措置(R&D以外) |
〇戦略分野等の外国企葉の法人税減免(所得発生後 5年100%、2年50%):高度技術を有する外国企業及び外国人投地域への投資に適用。 〇外国人技術者の所得税減免(2年50%)※2009年度までは、5年間100%免除 |
〇技術革新企業の法人税最長15年免除(パイオニア・ステータス)
〇統括拠点の法人税減免<地域統括拠点>:3年間、15%の法人税率適用。 <国際統括本部>:EDB(経済開発庁)との個別協議により、0~10%の法人税率適用。 〇特別居住者は、国内滞在中の給与所得部分にについてのみ課税 |
〇呼び込み目的の税制インセンティブなし |
入国手続(ビザ等) | 〇高度技術者は、3年で永住権取得可 〇査証オンライン化(1週間以内) | 〇外国人乳母の受入れ 〇経営者の両親帯同可 | 〇原則10年で永住許可 〇家事使用人の受入れ要件厳格 〇家族滞在は扶養配偶者・子のみ |
※経済産業省資料より
拉致問題で重要なことは「何を持って拉致の一定の解決とするか」を確定することである。
実際、何人の日本人が北朝鮮に連れ去られたかは分からない。政府認定拉致被害者は20人弱であるが、それだけしか拉致されていないと考える日本人はいないであろう。特定失踪者の会代表の荒木氏は、拉致の可能性を排除できない500人近い失踪者を具体的に確認している。その多くの肉親は家族が北朝鮮に拉致されたことを確信して政府に認定を求めている。問題は、その全員が確実に拉致されたということではなく、可能性が排除できないということで会える。事実その中には、日本国内で発見された事例もある。したがって、荒木氏は、その中で、特に可能性が濃厚な、70人ほどを「1000番台」と称している。つまり、可能性まで入れると膨大な日本人が拉致されていることとなり、全貌が判然としないこの事件においては、全面解決というものが、判断できないということである。
勿論、すべての拉致被害者が北朝鮮から解放される必要がある。しかし、そのすべてが明快に判断できない限りは、政府間の交渉において一定の解決という尺度を設定し、そこに向かって交渉して合意を取り付けることが第一義となる。
私自身担当大臣として、1月から3月にかけて、この一定の進捗なり、一定の解決なりについて関係者間の合意を得る努力をしてきた。関係者間とは「被害者家族会」「救う会」「特定失踪者調査会」である。
様々な議論をしてきた。寺越武さんは、政府は拉致被害者としては認定をしていないが、明らかに拉致被害者であろう。彼を拉致被害者としないことは殆ど困難と考えられる。13歳で日本から拉致された齢は横田めぐみさんと同じである。そしてある時、北朝鮮で子供や孫と共に生活していることが確認された。しかし、13歳から長期にわたって日本の祖国に戻れなかったこと、彼の失踪時の年齢が中学校一年であったことを考えると、明らかに拉致に間違いないであろう。
このケースの場合、その解決は彼を日本に取り戻すことになるのかどうかの議論は必要になる。二つのことは考えられる。例えば、蓮池さんご夫妻や地村さんご夫妻のように、夫婦ともに日本人拉致被害者の場合は、その子供も、全員日本人であり、夫婦子供全員の帰国は矛盾なく行われる。つまり、日本に被害者とその子供たちを奪還することが当然となる。
しかし、寺越さんの場合は、その奥さんは北朝鮮公民である。したがって、その子供は半分は北朝鮮の公民の血が流れている。その孫にいたっては事実上北朝鮮の公民である。つまり彼の奪還は、彼が夫婦の安定した生活とその子供や孫との家庭的団欒を否定することとなる。それが正しい奪還かという議論は必要である。
勿論、13歳の時の寺越さんは泣きながら日本を思い、お母さんのことを思ったであろう。それ自体は許されない国家犯罪であり国家テロである。しかし、その時の日本は彼を助けなかった。そして、彼は今や子供や孫に囲まれて北朝鮮で生活をしている。こうした、結婚を北朝鮮公民としているときは何を持って解決とするのかなど、一定の解決についての認識は共有されなければならない。
そして冒頭記したように、その被害者の数である。間違いなく拉致されている人間に限って、政府間交渉で北朝鮮側に問いただすことが必要である。その時に、私が荒木氏に頼んだことは、間違いない被害者のみに特定失踪者を絞り込んで欲しいということであった。
荒木氏は、事実上の日弁連認定に絞り込むときにも、そこに選ばれなかった他の特定失踪者の御両親から、なぜ自分の子供はその中に入れられないのかという声があり、大変に辛い作業であると告白をしていた。しかし、その作業をまず行わなければ政府間の交渉になじむ話にならない。
勿論その上で、一定の進捗で合意した後において、更に拉致問題の全面解決を図るために調査と行動を継続するのは当然である。しかし、その一定の進捗が認められたときには、北朝鮮に対する人道支援も可能となるし、建設的な議論も始まり得るというのが担当大臣としての私の見解であった。
しかし、同時に北側とのあらゆる接触を通して、被害者の数や人間についての不断の情報収集が行われていなければ、説得力のある交渉はできない。こうした諸点を総合的に勘案しながら、関係する団体を中心に一定の進捗の共有の認識を持つ努力をすることが担当大臣の最も重要な使命である。
アメリカの特命全権大使のルース氏との会談でも、何を持って拉致の解決とするのかという議論があり、こうしたことを私は説明した。
私は、松原仁3原則をこうした議論を踏まえて北朝鮮に強いメッセージとして送った。
松原仁3原則とは、
1.拉致問題の解決なくして北朝鮮との日朝国交正常化はない。このことは総理大臣がテレビ入りの予算委員会で国民の前で公言をしている。
そして、拉致問題は風化しない。横田めぐみさんが横田咲江さんや滋さんと再会できてこそ解決であり、もし不測の事態があって、再会が果たされないときには、永久に未解決の問題として日朝両国間に懸案として残るであろう。その意味で時間がないのは北朝鮮側である。
2.北朝鮮が従来死んだとしていた拉致被害者が実は生きていたとして開放した時には、嘘をついていたと批判することなく、北朝鮮が開放的になったのだと前向きに評価する。
3.日本側は一定の解決について関係者間で共有認識を持ち、その解決について認められる回答と実行があった時には、人道支援を行い、また建設的な議論を始めるであろう。
そしてその支援は、他の国に比べてより大きなものとなるであろう。
この松原仁3原則に対して、北朝鮮は朝鮮中央通信で5回に渡って私松原仁をぼろくそに非難してきた。「身の程知らずの松原仁、思い上がった松原仁、ねずみ男の松原仁」といった具合である。あまりの罵詈雑言に、こんな汚らしい日本語があるのかと唖然としたが、考え方によっては、北朝鮮に私のメッセージが強く届いている証明とも考えた。
拉致問題の解決は、多くの接触や協議も必要であるが、最も大事なことは日本側がこの一定の進捗について共有認識を持つ事であると敢えて記したい。
私の大臣時代において、最も印象に深かったものの一つに東京電力料金値上げについての議論、つまり公共料金についての議論があった。その時のキャッチフレーズは「東電の苦境の中で、消費者は汗をかくのであるから、当事者の東電はもっと汗をかけ」ということであった。
そもそも公共料金は、消費者にとって事実上選択肢がないものであり、その意味において、政治が消費者の立場に立って采配を振るうことが求められるものである。
それゆえに、その価格設定については、政府の物価問題関係閣僚会議においての経済産業大臣と消費者担当大臣の共同の附議が求められている。
私は消費者担当大臣として、7月に経済産業省との間で丁々発止議論をした。結論としてその値上げ幅は8.46%となった。私がこの間、巨大省庁の経済産業省を相手に一歩も引かずに議論しているところをもって、みのもんたさんの番組では、「月光仮面」の松原仁さんといわれて随分と持ち上げられたりもした。
結果として値上げ幅は8・46%に落ち着いたのであるが、少し経緯を詳しく話したいと思う。
消費者担当大臣としては、この公共料金値上げについてのわれわれの議論は、消費者(ユーザー側)の目線を確立するかということに主眼を置くこととした。
公共料金が、その企業の独占性を考えた時に、巨額の利益を上げることが相応しくないことは自明とされている。そのために、適正な料金設定が求められた。
しかし、多くの電力会社が過去長期において莫大な事実上の利益を計上し、様々な広告を出し、様々な事柄にスポンサードしてきたことは周知の事実である。またその剰余金もある人間の証言によれば、膨大であったとされる。今日、3兆5000億の資金が核廃棄物の最終処分のために計上されているが、こうした資金も公共料金の事実上の利益から作られたものと考えられる。
本来の消費者保護を実現し、経済の活性化を図るという観点から、適正利益を考えることが大事である。今回の料金値上げについても、その観点から議論が進んだ。その実現のために、私の主導のもと、41項目のチェック項目を設定することとした。それは、より適正な電力会社の利益を議論するために、抽象的でなく具体的にするためには、こうした方式がふさわしいと考えたからである。
この検討会において、消費者団体の皆さんから出てきた原子力発電所の減価償却費などの扱いについての指摘や意見は正論であった。しかし、原発が稼働せず、火力発電に頼る中、東京電力の財政的体力は急速に弱体化していて、正論通りの議論に沿った値上げでは、従来のスキームを維持できないということが議論の途上で判明した。
従来、政府の中で行われていた議論は、関東を中心とする受益者の責任で東電を再生するというものであったが、消費者庁の検討会議における正論を通せばそのスキームが壊れ、北海道から九州まで含めた国民全体でその負担をしなければならなくなる。
内閣としての方針は既に決められたスキームを当然に守るということであったため、今回示した対策は私としてのぎりぎりの選択であった。したがって、内閣の一員として私は、標準世帯当たりの電気料金という数字の議論から、従来膨大な利益を結果として出していた料金設定の仕組みにメスを入れるという本質的な選択をすることとなった。つまり8.46%という標準世帯当たりの値上げを許容する代わり、毎年期末において、その標準の設定が妥当性があって、巨額の利益を上げていないかどうかを事後チェックするということを確定した。
しばしば指摘されるように、電気料金は使用すればするほど、一ワット当たりの単価は上昇する。平均の所帯よりも多く使う所帯は、使う料金が加速度的に高くなるという設定になっている。例えて言えば、1個10円の卵は10個買うと100円だが、20個買うと、200円ではなく220円になるというようなものである。
そこで、平均所帯の電気料金を設定して、実際はほとんどの所帯でそれ以上の電気を使う、つまり実際の電気使用標準世帯が、当初の設定の標準世帯より多く電気を使うこととなれば、収入は常に予想よりも大幅に大きくなる。
このことに対して、事後のチェックがなければ、電力会社は説明をすることもなく、毎年そうしたことを繰り返すこともあり得る。こうしたことのチェックをすることは、明示的な8.46%を確定するよりもはるかに本質的なものと考えられた。事実、今回の8.46%の料金値上げで従来と同じ電気使用で、費用が上がった家庭は少数であり、実際はそれ以上か以下であろう。
更に、家庭用と事業用についての収益構造のアンバランスについても、歪みを是正する仕組み作りを提言した。
また、一般の民間企業において、健康保険料の本人負担と会社負担の割合は50%50%の折半が常識的であるが、電力会社の場合は会社負担が63%にも及んでおり、社員の負担が極めて軽くなっていた。
未曾有の災害を引き起こした東電が、こうした社員に甘い制度を続けていたのでは、さすがに料金値上げについての利用者の理解が得られないとして、経済産業省の専門家会議は会社側の負担率を56%とすることを発表した。しかし、56%の会社負担も、世間の常識とは異なるものであると我々は考え、会社側負担率を50%に引き下げるべきであると勧告し、消費者庁と経済産業省で合意をした。
この他にも、管理職の給与引き下げについて、経済産業省が主張した「従業員1000人以上の規模の会社を踏襲する」という議論も、汗をかいてお金を払う個人家庭や中小企業からすれば、納得することができないものであった。そこで消費者庁として、給与水準についても大きくメスを入れ、管理職の給与は30%の削減をすべき等を勧告し、経済産業省と合意した。
現在、九州電力や、関西電力において、こうした値上げの議論が始まろうとしている。少なくとも、私が担当大臣の時に、41のチェック項目をもって、毎日深夜まで協議し議論したことの成果を活かして欲しいし、自分の立ち位置の中で、その点は消費者目線を貫いていきたい。
私はかねてから、民主主義は二つの要素によって成立をすると言ってきた。ひとつは、一票の格差などの課題を含めて、多数決がしっかりと制度的に担保されること。もう一つが、古代ギリシャの政治家ペリクレスがいう様に、その民主主義を支えようとする市民の情熱である。
ペリクレスは「アテナイの国民は自分の家のことと同じように、国家のことを心配しそのために汗を掻くべき」と強調した。こうした民主主義を支えようとする情熱、パトスは、国家が自信を持ち、そして個人がそこに情熱を捧げるに値するという威信を持つことから生み出される。そのためには、国家は一方において、海外との関係においても自信と誇りを持ち、国内においては一人一人の国民にとって母なる国家、父なる国家というような包容力を持つ必要がある。すなわち、主権がしっかりと確立されて、国民に自信を与えるような振る舞いを国家はなさなければならない。
私が、毎年終戦の日に靖国神社を訪問し、不戦の誓いを立てながら、先人に対する誠を捧げることも、また同時にパール判事の碑に花を手向けることも、こうした歴史とともに今の自分があり、そこを尊重することによって、ペリクレスが言う「民主主義への情熱」が高まると考えるからである。そういえば、ペリクレスのその演説は、戦争で死亡したアテナイの兵隊に対する追悼の演説であった。
こうした発想のもと、2年前の中国人船長釈放に対しては、日本の権威と国益と自信を失わせるとして、100名を超える民主党の国会議員の署名を持って抗議をしたのである。もしもこうした措置を採るのであれば、自民党時代に彼らがしたように、逮捕することなく強制退去をさせた方が、国威を棄損することはなかったであろう。
また、国家はその領土については、正に先人と今の我々と未来の子孫に対しての責任として、強い境界意識を持つべきであると考える。国土交通副大臣の時に、平沼赳夫領土議連会長を含む領土議連有志8人と共に、国土交通省の飛行機で上空から男女群島を視察した。
実にこうした国家の主権を守ろうとする行為の中に、民主主義のパトスがあるということ加えて指摘したい。
私は今から3年前に、民主党の中における宮崎岳志君と金子陽一君などの若手議員と共に、「デフレ脱却議員連盟」という100人を超えるメンバーの議員連盟を設立した。私が会長に就任し、デフレを脱却するための行動を起こしてきた。
その立場から行くと、まずデフレ状態の中での増税というのは許されないと考える。少なくとも、今回の法案においては、「景気弾力条項」(停止条項)があるのであるから、そのことの重みを政府と日銀が共に 痛感してデフレ脱却にあらゆる手段を採って取り組むべきである。
この前提で考えた時に、まずもって日銀の取り組みは不十分と言わざるを得ない。そのことを私は政府部内の経済関係閣僚会議において何回も指摘した。日銀の白川総裁が、事実上の1%インフレターゲットを標榜した時には、そのことを受けて円安と株高が一時的に実現した。
ある会合で、渡辺喜美議員と同席をする機会があり、話をしたことがある。その時渡辺氏が私に「1%インフレターゲットで、これだけ株価が上昇し、円安になったのだから、2%、3%を標榜したらどれだけ景気の刺激になるだろうか」ということを指摘しておられた。なるほどと私は同感し、ある時の政府経済関係閣僚会議で、そのことを白川さんに指摘したことがあった。
別の時には、デフレ脱却に取り組んでいるという白川さんの指摘に苦言を呈したことがある。それは、その金融緩和の規模があまりにも小さいから苦言を呈したのである。「金融緩和は需要があるからするのではない。多くの消費者や事業者が、今後はデフレではなくインフレになると考える“マインドチェンジ”を行うために金融緩和は行うのである。したがって、それは心理学の領域であり、心理的に事業者や消費者に一定のインパクトを持つように行わなければならない」と指摘した。
ここでデフレがなぜ景気にとってマイナスかを改めて説明したい。
インフレと言うことは、物の価値が高くなり、お金の価値が下がるのである。今まで100円で買うことのできたリンゴが120円になればインフレであり、お金の価値が物に対して下がったということになる。逆に90円で買えることになれば、リンゴの価格が下がったことになり、お金の価値が相対的に上昇したことになる。例えて言えば、株式を持っている人で、今持っている会社の株券が現在10万円であるとして、今後それがもっと高くなると思えば今売ることはしないで、値段が上がってから売るに違いない。逆に、今10万円の株式が今後値下がりするとすれば、値下がりする前に売り払って現金にする。同様にお金の価値が今後上がると考えれば、今使わないで、物がもっと安くなってから買おうとする。逆に、お金の価値が今後下がるとすれば、購買力のあるうちに、モノの値段が上がる前に使おうとする。これは当然の行動である。
デフレということは、今後お金の価値が上がるとみんなが考えているわけでるから、お金を最低限必要のことにしか使われないで、基本的にはお金のまま温存することとなる。
言うまでもなく、お金は紙でできている。あえて言うならば、動けば〈お金〉、止まれば〈紙〉ということである。お金がお金としての経済活性化のための本分を果たすとすれば、若干のインフレが経済活性化のための条件と言えよう。その意味で、心理戦において、今後インフレになると多くの関係者に認識をさせるための金融緩和が実は重要である。
その時に忘れてはならないことは、実際に金融緩和をしてもデフレ脱却の効果が実現できないときでも、更なる金融緩和を機動的に断固としてするぞというような決意が語られることである。
日銀総裁は、一方においてデフレ脱却の決意を語りながら、他方において無条件には追加の緩和をしませんと言うことを表明してきた。それは、自動車に乗ってアクセルを踏みながら、同時にブレーキを踏んでいるような行為と言わざるを得ない。
確かに、中央銀行である日銀の資産は、日本経済全体において相当な大きさである。したがって、リスク要因を考えると、これ以上資産を増やすことは適切でないという考え方はある。
リーマンショック以来の時間的経緯の中で見ると、アメリカのFRBがその資産を3.5倍近くに増やし、ヨーロッパ中央銀行はその資産を2.5倍近くに増やしてきた。一方の日本銀行は、1.3倍くらいしかその資産を増やしていない。つまり、アメリカ国内のドル紙幣を中央銀行として3.5倍近くに増やし、ユーロについては2.5倍近くに増やしたのに対して、日銀は1.5倍くらいしか円を増やしていないのである。
これでは円高になるのは当たり前だし、多くの国民がインフレ期待を持つ事はあり得ない。この程度の金融緩和では、世界の他の国との相対的比較においても後れを取っていることは明快である。
この度、11兆円の金融緩和ということが新しい内閣で決定された。そのこと自体は有効であると考えるが、その11兆円の緩和を徹底的に活用するのであれば、同時にデフレ脱却が実現するまで、今後もあらゆる手法を使うという一種の心理的効果を持つ発言を付言しておくべきであった。
ところが、「金融緩和によるリスク要因を考えながらこの政策を行う」というような、ブレーキともいえる発言を文書の中にあえて記述した。インフレマインドを高めることは心理戦であるという基本的認識を十分に考えたうえで、デフレ脱却のために11兆円を有効に使うという視点が欠けていた点が残念であった。
次に、国税収入と経済活性化の関係についても一言付言しておきたい。
政府金融機関は、経済の名目GDPが1%上昇した時に、国税収入は1.1%増収になるということを発言している。これは一般に「弾性値」といわれるものである。
弾性値を算出する際には、過去10年のデータを基とすることが一般的であり、内閣府の調査においてはそうしている。しかし、政府金融機関のそれは過去30年間の平均を採用したものであり、作為的に弾性値を低く算出していると言われても仕方がない。内閣府の試算では、名目GDPが1%上昇した時には、国税収入は3.5%以上上昇するという数値が指摘されている。
経済の活性化が最大の税収アップにつながるのであり、そのために断固として金融緩和とインフレマインドを高める心理戦と政策を完遂するように今後の内閣には期待したい。
今回、衆議院の議院運営員会において、民主党渡邉筆頭理事が提言した委員長手当の廃止は、公明党は賛成したものの、自民党の反対によって否定された。この委員長歳費というものは、委員長がその委員会の円滑なる運営のためにのみ使用できる特別の経費である。
しかし、実態としては、そうしたことに使われることはきわめて稀である。したがって、この歳費については、従来から議員のお手盛りである可能性が高く、廃止をするべきとの意見が多くあった。
今回、議員自体が身を切る必要があるという認識の下、この委員長歳費について、民主党としては廃止するべきであるということを議会運営委員会に提出をしたのである。しかし、冒頭既述したように仕組みとしての廃止は自民党の反対でできなかった。
そこで、民主党の各委員会委員長の有志が、この際それぞれの責任で、この歳費を自主返納しようということとなり、私も先般、委員部に対してその返納手続きを取った。
政治改革をする上で、こうした姿勢というものが重要であるという認識の下、手続きをしたのである。